学術研究の成果を広く共有するために欠かせない「学会誌」。その印刷には、正確性や視認性、保存性など、さまざまな要素が求められます。近年では、少部数から対応可能な「オンデマンド印刷」が主流となりつつあり、学会誌の制作にも柔軟性とコスト効率をもたらしています。
今回は、オンデマンド印刷のメリット・デメリットを踏まえつつ、学会誌に適した用紙の選定方法や製本方式の選び方について詳しく解説します。
オンデマンド印刷とは?学会誌に適している理由
オンデマンド印刷とは、必要な部数だけを短納期で印刷できるデジタル印刷方式のことです。従来のオフセット印刷と比べて、初期費用が抑えられ、在庫リスクも軽減されるため、学会誌のような定期刊行物や少部数発行物に非常に適しています。
| オンデマンド印刷のメリット | |
|---|---|
| 少部数でも対応可能 | 数十部〜数百部の印刷が可能で、小規模な学会や研究会にも最適。 |
| 短納期 | データ入稿から数日で納品できるため、スケジュール調整がしやすい。 |
| コスト効率 | 版を作る必要がないため、初期費用が不要。必要な分だけ印刷できる。 |
| データ修正が容易 | PDFなどのデジタルデータで入稿するため、誤字脱字の修正も柔軟に対応可能。 |
| オンデマンド印刷のデメリット | |
|---|---|
| 単価が高くなる場合がある | 部数が多くなると、オフセット印刷の方が割安になるケースも。 |
| 色の再現性に限界がある | 写真やグラフの色味にこだわる場合、オフセット印刷の方が安定する。 |
| 紙種や加工に制限がある | 一部の特殊紙や加工には対応できない場合もある。 |
用紙の選定方法:読みやすさと保存性を両立するには
学会誌の印刷において、用紙選びは非常に重要です。読者の視認性や手触り、保存性に直結するため、内容や用途に応じた選定が求められます。
本文用紙の選び方
◆上質紙(70〜90kg)
→ 白色度が高く、文字がくっきり見える。論文やレビュー記事に最適。
→ デメリット:インクの裏写りが起こる場合があるため、厚みの調整が必要。
◆書籍用紙(淡クリーム系)
→ 長時間の読書に適した目に優しい色味。保存性も高く、学術誌に好まれる。
→ デメリット:写真やカラー図版の再現性がやや劣る。
◆コート紙・マットコート紙(90〜110kg)
→ グラフや写真の再現性が高く、ビジュアル重視の誌面に適している。
→ デメリット:光沢が強く、長時間の読書には不向きな場合も。
| ・書籍用紙の特徴 |
|---|
| さらっとした手触りでページをめくりやすい |
| 淡いクリーム調の色味の用紙が目に優しい |
| 落ち着いた印象で高級感が出せる |
| 塗工紙と比較するとカラーの発色は悪い |
| 黒の色が映え、モノクロ印刷に向いている |
表紙用紙の選び方
●アートポスト紙(180〜220kg)
→ 高級感があり、カラー印刷に適している。学会の格式を表現するのに最適。
→ デメリット:厚みがあるため、製本方式によっては折りにくい。
●マットポスト紙
→ 落ち着いた質感で、文字中心の表紙に適している。
→ デメリット:色の発色がやや控えめ。
●色上質紙
→ 紙全体に色がついているので、モノクロ印刷でも色のイメージを出すことが出来る。
→ デメリット:ロゴや写真などのカラー印刷に不向き
●レザック
→ 紙の風合いで高級感を演出する事が出来る。
→ デメリット:色上質紙同様にカラー印刷やイラスト・写真の印刷には不向き。
製本方式の選び方:用途と予算に応じた選択
学会誌の製本方式は、使用目的や予算、保存期間などによって選ぶ必要があります。以下に代表的な製本方式とその特徴を紹介します。
◆無線綴じ(くるみ製本)~本文の背を糊で接着し、表紙でくるむ方式。書籍や学術誌で最も一般的~
| メリット | デメリット |
|---|---|
| ページ数が多くても対応可能(最大300ページ程度) | 180度開きにくく、書き込みには不向き |
| 背表紙ができるため、書棚での識別が容易 | 糊の劣化によるページ剥がれの可能性(長期保存時) |
| 保存性が高く、長期保管に適している |
おすすめ用途:論文集、年報、研究報告書など
◆中綴じ(ホチキス綴じ) ~冊子の中央を針金で綴じる方式。パンフレットや小冊子に多用~
| メリット | デメリット |
|---|---|
| 180度開いて読みやすい | ページ数に制限あり(通常48ページ以下) |
| 製本コストが安価 | 背表紙ができないため、保管・識別に不向き |
| 軽量で持ち運びしやすい |
おすすめ用途:学会プログラム、抄録集、速報レポートなど

◆PUR製本(強力無線綴じ) ~無線綴じの一種で、耐久性の高いPUR接着剤を使用~
| メリット | デメリット |
|---|---|
| 接着力が非常に強く、厚冊子でも剥がれにくい | 通常の無線綴じよりコストが高め |
| 長期保存に最適 | 製本工程に時間がかかる場合がある |
| 環境変化(湿度・温度)に強い |
おすすめ用途:学会誌の保存版、記念誌、論文集(厚冊子)

◆その他の製本方式
| 製本方式 | 特徴 | 用途例 |
|---|---|---|
| 糸綴じ製本 | 糸で綴じるため耐久性が高く、開きやすい | 高級学術誌、記念出版物 |
| リング製本 | プラスチックや金属リングで綴じる | ワークショップ資料、配布用資料 |
| 上製本(ハードカバー) | 表紙が厚く高級感あり | 創立記念誌、永久保存版 |
学会誌印刷の準備ポイント
最後に、学会誌をオンデマンド印刷で制作する際の抑えておきたい準備のポイントをいくつかご紹介します。
①PDF入稿の精度を高める
オンデマンド印刷では、PDF形式での入稿が基本です。以下の点を確認することで、印刷トラブルを未然に防げます。
| フォントの埋め込み | 未埋め込みのフォントは文字化けの原因に。必ず「すべて埋め込む」設定で保存。 |
| 画像解像度 | 印刷品質を保つためには300dpi以上が推奨。スクリーンショットや低解像度画像は避ける。 |
| トンボと塗り足し | 断裁ズレを防ぐため、3mm以上の塗り足しとトンボの設定を忘れずに。 |
| カラーモード | RGBではなくCMYKで作成することで、色味の再現性が向上。 |
②校正の時間を確保する
オンデマンド印刷は短納期が魅力ですが、校正の時間を削ると誤植やレイアウト崩れのリスクが高まります。
| 初校・再校のスケジュールを確保 | 最低でも2回の校正を行うことで、誤字脱字や図表の不備を防止。 |
| 校正担当者の明確化 | 編集委員や執筆者の中から責任者を決めておくとスムーズ。 |
| PDF校正と紙校正の併用 | 画面上では気づきにくいレイアウトのズレも、紙で確認すると発見しやすい。 |
③印刷会社との連携を上手く行う
仕様のすり合わせ不足は、納期遅延や仕上がり不良の原因になります。以下の点を事前に確認しましょう。
| 用紙の種類と厚み | 本文・表紙それぞれに適した紙種を選定。見本紙を取り寄せるのも有効。 |
| 製本方式の確認 | 無線綴じ、中綴じ、PUR製本など、ページ数や用途に応じた選択を。 |
| 納期と配送方法 | 学会開催日から逆算し、余裕を持ったスケジュールを設定。 |
| 入稿形式の指定 | PDF/X-1aなど、印刷会社が推奨する形式で入稿することでトラブルを回避。 |
④予備部数の確保
学会当日の配布や保存用、予期せぬ追加ニーズに備えて、予備部数の確保は必須です。
| 目安:本番部数の5〜10%増し | 例:100部配布予定なら、110〜120部印刷しておくと安心。 |
| 保存用・寄贈用を考慮 | 図書館、研究室、関係者への寄贈分も忘れずに。 |
| 再印刷の可否を確認 | オンデマンド印刷なら追加印刷も可能だが、納期と価格に注意。 |
読みやすく、伝えやすく・・・
学会誌の印刷は、単なる「紙への出力」ではなく、研究成果を正しく、そして美しく伝えるための重要なプロセスです。オンデマンド印刷の柔軟性を活かしながら、用紙や製本方式を適切に選定することで、読者にとって読みやすく、保存にも耐える一冊を作ることができます。印刷の選択肢が広がる今だからこそ、目的に応じた最適な仕様を見極めることが、学会誌制作の成功につながるのです。
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Profile:
坂下大輔
コピンピア一筋21年。会社随一のアイデアと閃きで、社内外に向けたいくつもの企画を成功に導き社長賞を何度も受賞。知識よりも感覚で仕事をするのが好きで、簡単なデザインならデザイナーに依頼せずに自分で作成してしまうことも。社員旅行では宴会ではしゃぎ過ぎる一面も持ちながら、息子の影響でFC岐阜とお寺巡りにはまっている。日本酒が大好きなのに焼酎が飲めないという変わったお酒好き。



